音声通話用PHS回線をコンピュータによるデータ通信用に改造(拡張)したものがPHS回線モバイルブロードバンド(ワイヤレスブロードバンド)です。
音声通信用回線を拡張した仕様の為、途中で通信が途切れることの無いように設計されており、常に安定した通信品質が確保されているのが特徴です。
逆に急激に大量の情報を伝送した場合でも、安定性が有線されるので通信速度が向上するようなことはありません。(この問題はXGPでは解消されています。詳しくは後述します。)
データ通信の場合、数秒ぐらいならば通信が断線しても繋がるときに高速通信できれば快適に利用できるものですが、PHS回線は音声通信回線とデータ通信回線を併用しているのでデータ通信に特化できません。
必ずしもコンピュータによるデータ通信に最適なモバイルブロードバンドとは言えないかも知れません。
しかし、「回線が切断しない」「どこでも繋がる」ことを優先する方には最適なモバイルブロードバンドかも知れません。
PHS回線を使用するため、ネットワークに接続するたびにダイヤルアップ接続が必要になります。この点は一昔前のアナログインターネット接続の時に使用したモデムと同じです。
PHS回線ではデータ通信カードも「モデム」としてOSに認識されています。
PHS回線の特徴として、セル半径が小さいことが上げられます。半径100メートルから数百メートルの小さなセルを無数に張り巡らせています。このような小さなセルのことを マイクロセル と呼びます。
マイクロセルの長所は、基地局と端末の距離が近い為、低出力の電波で通信できるという点です。
低出力の電波であれば消費電力が少なくて済みます。ノートパソコンなどのバッテリー消費も少なくて済みます。
また、病院などの精密機器やペースメーカーへの影響も少なくて済みます。(皆無ではありませんが。)
病院や人の多く集まる公共空間で比較的利用しやすい点が魅力です。
出力が小さいので基地局の設備も安価なものが利用でき、基地局設備を増設しやすい為、対象エリアを拡大しやすい。通信料金を安価にしやすいなどの長所もあります。
もう一つの長所は、セルが小さい為、一つの基地局に接続するユーザー数が少なくて済む点です。接続するユーザー数が少なければ、電波資源の取り合いによる通信速度の低下も起きにくいことになります。
限られた電波資源を複数ユーザーで共有する場合、セルが小さいということは電波資源を有効利用できるということです。
逆に短所としてはセルが小さい為、移動時のハンドオーバーの発生回数が多くなってしまう点です。PHSは携帯電話同様、移動体通信回線としての歴史が長いので通信遅延や断線の無いスムーズなハンドオーバーを実現するよう設計されていますが、完全にハンドオーバー時の通信遅延や一時的な断線をなくすのは難しいことです。
日本でPHS回線モバイルブロードバンドを提供している業者は、WILLCOM(ウィルコム)一社だけです。
ウィルコムが自ら通信インフラを提供し、モバイルブロードバンドを提供しているサービスは、以下の2つです。
サービス名 | 読み方 | AIR-EDGE | エアーエッジ |
---|---|
WILLCOM CORE XGP | ウィルコム・コア・エックスジーピー |
AIR-EDGE はPHS回線を利用したパケット通信サービスです。
定額制で、もっとも安い料金プランで月額3880円で提供されています。
通信速度は最大 512kbps です。
全国に 16万 の基地局を持ち、人口カバー率は 99% に達しています。
XGP とは「eXtended Global Platform」の略で、ウィルコムが中心となってPHSのマイクロセルなどの仕様を継承してデータ通信専用に策定した移動体通信技術規格です。
言わば、PHS回線モバイルブロードバンドの高度に進化したものです。
データ通信専用なので音声通信には対応していません。
音声通信回線とデータ通信回線を併用する必要がないのでデータ通信に特化した通信品質が確保されています。
通信方式には、情報の変調方式や複数ユーザーで電波を共有する多元接続方式などさまざまな通信方式があります。
XGPは、多数の通信方式に対応しており、通信状況に応じて自動的に通信方式を切り替えるようになっています。
通信していないときには、低速安定の通信方式に切り替え、大量の伝送を行い、且つ電波状況の良いときは高速の通信方式に切り替えるというように、通信状況、電波状況によって通信方式を切り替えます。
データ通信には最適なモバイルブロードバンドかも知れません。
WILLCOM CORE XGP はその名の通り、XGPを採用したモバイルブロードバンドサービスです。
モバイルブロードバンドの最新技術を逸早く導入し、最大通信速度 20Mbps というADSL並みの高速通信を実現しています。
WILLCOM CORE XGPの特徴は、「上り」と「下り」の通信速度が同じである点です。
最大20Mbpsという通信速度は「下り」だけではないのです。「上り」も20Mbpsの速度で通信できるのです。
通信料金は定額制で月額 4380円 です。
XGPでは、ハンドオーバーをスムーズにするために、基地局を重複配置することが可能になっています。つまり、隣り合った基地局のセルが重なり合った形での基地局の配置が可能になっています。このような基地局の配置を「オーバーレイ配置」と呼びます。
オーバーレイ配置によりPHS回線の弱点である「移動時にハンドオーバーが発生しやすく通信品質が低下しやすい」という弱点を克服しています。また、オーバーレイ配置により一つの端末が複数の基地局の中から電波状況の良い基地局を選んで通信できるので実行速度が向上する長所もあります。
マイクロセルの長所を引き継ぎ、なおかつハンドオーバーにも強いという大変強力なモバイルブロードバンドサービスになります。
WILLCOM CORE XGPの対象エリアは、現在(2010年4月)「東京都山手線内の一部地区」だけです。残念ながらほとんどの地域で使用できません。
現在の基地局の数は約1500局です。
今のところ「試験サービス」に近い状態です。
しかし、ウィルコムは2013年3月までに、「基地局2万局を開設して日本全国の都市をカバーする」と発表しています。
2010年2月18日ウィルコムは会社更生法適用申請を行いました。現在、ウィルコムは経営再建中です。
報道によると、「最有力視されている再生案は、ウィルコムをPHS事業と将来性のあるXGP事業に分割し、支援機構はPHS事業に100億円余りを融資。ソフトバンクと投資ファンドのアドバンテッジパートナーズはXGP事業にそれぞれ3分の1程度を出資するという内容だ」だそうです。
とりあえず、現在のPHSとXGPのサービスは今後も継続して提供されるようです。
XGPという画期的な技術とインフラが消滅してしまうことは、大変もったいないことです。ウィルコムには速く経営を立て直してXGPの全国展開を達成して欲しいと思います。